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column108 壁掛けエアコンの全館空調効果 2023.08.22

壁掛けエアコンの全館空調効果

エアコンを床下に設置して暖気を作り、床上の吹き出し口から室内を暖める方法を見聞きした時は、その大胆な発想に感心しました。
2000年代のはじめ前後だったと記憶しますが、その後は実践者が続いてノウハウが蓄積、設置方法のバリエーションも増えて、壁掛けエアコンで全館空調効果を得る手法は、住宅市場で一定の支持を集めています。

冬は下から、夏は上から

現在では様々な考え方がある壁掛けエアコン方式ですが、弊社が体験したのは床下に冬用の、ロフトに夏用のエアコンを設置する方法です。

よく知られるように、周囲より温度の高い空気は上昇します。
この性質を利用して、冬は一階床より下に設置したエアコンで床下空間を温め、家全体に床からじんわり暖かさを広げます。
逆に夏はロフトに設置したエアコンの冷気を、吹き抜けを利用して降ろします。

前提として、
・基礎断熱とする
・外皮性能はG2グレード前後の高気密高断熱住宅
・窓は全てLo-Eペアガラス以上の高機能樹脂サッシ
・部材の隙間のない、C値0.5前後の家
・家の中心に暖気や冷気の通り道となる大きな吹き抜けを設置
・個室を含めて出来るだけ仕切りを減らした間取り
・個室扉はスリット等を設けて空気の流通を確保
・南面に大きな日射取得型ガラスの窓を設置、ほかの窓は小さめに
・24時間換気は熱交換型とする
などの必須条件があります。

冬は足下からが、人も建物も気持ちいい

正直に言ってこれだけの条件を満たしたら、冷暖房方法がなんであろうと、快適な住宅になりそうな気もします。
人気の秘密は、暖房の「足元から暖まる」点でしょうか。

温風が床から吹き出す対流熱、足裏が温まる伝導熱、床や壁からの輻射熱、複合的に空間を温める冬の快適性が、支持を集めるようです。

疑問点はほぼ解決済み

壁掛けエアコンの床下設置には、当初から疑問の声もありました。
①壁掛けエアコンの使い方から逸脱し保証対象にならない?
②床付近の塵埃の多い空気を吸気して拡散する恐れは?
③床下エアコンの365日24時間稼働で本体の寿命は短い?
④個室まで十分に温度が行き渡るか?
⑤床下のエアコンにリモコンが効くか?

①については、メーカーが推奨しない使い方は保証対象とならない可能性大、床置き型エアコンもありますが床下設置の保証はどうでしょうか。
②はこまめなフィルター掃除は必須ですが、全館空調はいずれも同じです。
③は可能性大とも、オンオフが少ないので長もちするとも意見がありますが、取り替え時の作業空間や動線の確保は必要でしょう。
④も間取りや面積によって、個室への引き込みファンや予備冷暖房が必要かも。
⑤はスイッチ方式の機種で回避できます。

また暖房は、暖気を床下にムラなく流通させる必要があり、床下に送風機や整流板を設置することがあります。
床下の気流を考慮した基礎立ち上がり、床下で作業できる人通口、構造の知識も経験も求められます。
床下の清掃方法と経路も考慮しておく方が良さそうです。

選ばれる理由

エアコンの台数が少ないとは言え、ハイレベルな高気密高断熱住宅を前提とし、構造設計や気密測定が必要なこの方法は、いわゆる「ローコスト住宅」のカテゴリーに収まりそうもありません。

それでも人気が広がる理由は、ビル空調を住宅に適用した欧米式の全館空調と比較した時、必要面積やコストの負担が少ない点があげられます。
この方法、アクセスしやすい全館空調として、人気が続きそうです。

→column109 階間エアコンの全館空調効果 2023.0829

このコラムは、注文住宅を計画する方の参考になることを目的に、アーキシップス京都の経験に基づいて書き下ろします。
トピックス、技術、経験の内容は、主観に基づくことをご了承ください。

高気密高断熱+エアコン=省エネ×省コスト×快適
全館空調壁かけエアコン方式 夏はロフト、冬は床下から
等級によるua値(外皮平均熱貫流率)の変遷
床下の温風をスリットから居室へ
床置き型のエアコンもある 出典:ダイキン工業
ダクト式全館空調 キッチン背面上部に機械室がある
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